恋愛イデアル続編
雨降る庭に。
[雨降る庭に]

長月遥はぼんやりと深沈の粉糠雨が軒先に雨音とともに滴るのを、今さらながら布団のなかで感じていた。梅雨の冷えた空気が心地よい。

長月遥はジャージを着たまま眠りに入るのだが、梅雨のそんなときはたいてい、柊の傾斜にある、庭先の紫陽花の紫や青の花びらを思い出すのだった。

軒先のかすかな雨はたいてい安らぎをもたらした。深沈のそれは大地の営みに自身がつつまれている、という安堵だった。

柊とは異質なものも長月遥は感じていた。賽の目のような俗世だ。冷ややかな人間世界がもつ世事、あるいは認識を逃れるためには深沈が必要だった。雨はしばしば深い安堵をもたらした。
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