ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 玄関に入って、どちらからともなく抱きしめ合って、キスをした。
 暑かったけど、はるちゃんの体温は心地良かった。
「……このまま抱きたい」
 ささやかれて、体がうずいた。
 でも、それはちょっと困る。
「汗かいてるから、今はちょっと」
 そう言っても、はるちゃんは離してくれない。
「お腹空いたでしょ?ご飯食べよう。用意してあるから」
「えっ」
 ガバッと体を離す。
「用意って夕飯?」
 そんなに驚かれると、複雑だ。
「うん……今日来るって言ってたし」
 生姜焼きだから、肉を漬けといただけだけど。
「何作るの?」
「生姜焼き」
「やった、食べたい」
「じゃあ部屋入ろう」
 はるちゃんは手を洗って、ルンルンと部屋に入っていく。

 初デートの日、私は初めて手料理を振る舞った。
 親子丼と小松菜のごま和えと味噌汁という簡単メニューを、はるちゃんはあっという間に完食した。
 私が作った食事は、はるちゃんの口に合うらしく、ぱくぱく食べてくれる。
 おいしそうに食べる顔を見ていると、こっちまで嬉しくなる。

 生姜焼きを2人で食べる。
 2人でいるのが凄く嬉しい。
 自分が思ってたよりも、はるちゃんがいなくて淋しかったんだと気付いた。

「そういえば、井上に会った?」
「今日は会ってないよ。どうかしたの?」
「千波さんを待ってる間に偶然会ったんだけど」
 はるちゃんは思い出したのか、笑いをこらえている。
「来週、佳代ちゃんが帰国するんだって」
「えっ、あの佳代ちゃんが?」
「そう。すっげー浮かれてて、周りに花飛んでるみたいだった」
「良かったね、ずっと待ってたもんね」
「うん。夏休みを帰国に合わせてて、帰って来たら、ずっと一緒にいる予定なんだって」
 嬉しいんだろうな、きっと。
 井上君が、佳代ちゃんの話をするのは何度も聞いた。写真も見たことがある。小柄な可愛い感じだった。2人の仲が良いことがよくわかる写真だった。
「ずっと一緒にいるんだって」
 はるちゃんが、意味ありげに言う。
「へえー、うらやましいね」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「じゃあ……」
 はるちゃんが、私をじっと見ながら言う。
「月曜の朝まで一緒にいてもいい?」

 初デートをした週は、日曜の夜まで、という約束で、結局月曜の朝まで一緒だった。
 一旦家に戻って会社に行く準備をして、はるちゃんが家に来たのだった。

「いいけど」
 はるちゃんの顔が曇った。
「けど?」
「今日帰ったばっかりだし、荷物の整理とか、洗濯とかあるんじゃないかと思って」
「洗濯は向こうでしてきた。荷物は片付けてきたよ」
「月曜の会社の準備は?」
「してある」
 月曜日は外周りは無いから、カジュアルな服装でもいい日だった。ちょっと荷物が多いと思ってたら、そういうことか。
「なら、断る理由はないよ」
 なんだかはるちゃんは不満そうだ。
「なんか一緒にいたくないみたい」
「そういう訳じゃないよ。だってやるべきことはやらないと、一緒にいても心配になって楽しめないし」
 はるちゃんが沈んでしまった。暗い表情だ。
 そうじゃないのに。
「……ごめん、言い方の問題だね」
 手を伸ばす。
 はるちゃんの腕に触れると、ピクッとした。
 あれっ可愛い。
「もし、片付けてないとか、月曜の準備ができてないとかなら、はるちゃんちに一緒に行ってもいいなって思ってたの」
 はるちゃんが私に目を向ける。
 うるうるして、切なげで。
 可愛いんだけどカッコいい。
「私が月曜の準備していってもいいし、と思って……」
 心臓がうるさい。
 キスしたい、と思ったけど、体がほてってうまく動かない。
 そうしたら、はるちゃんが私の頬に触れて、ちゅっとキスをした。頭をなでて、食事を再開する。

 仕事の時に見せる、クールで無表情な彼はどこに行っちゃうんだろう。
 2人の時は甘々で、優しく笑ってくれる。

 食事の後、はるちゃんが先にお風呂に入り、次に私が入った。
 上がって部屋に戻ると、はるちゃんがベッドの上に犬の抱き枕を抱いて横になってテレビを見ている。
 キッチンからコップを持ってくる。テーブルにあったお茶を注ぐと、はるちゃんが起き上がった。
「お茶出しっぱなしだった、ごめん」
「いいよ、大丈夫。室温の方がいい時もあるから」
「そうなの?」
「うん、その時々によるけど。体がびっくりしないし、今はぬるくてもいいから」
「へえ……覚えとく」
 はるちゃんはお茶を飲んで、抱き枕を抱えた。
「こいつさ」
 ぽんぽんと犬の背中を叩く。
「千波さんの匂いがする」
「毎晩一緒だからね。大分使ってるから匂いが染み付いてるのかも」
「そっか、千波さんがいない間、こいつを借りとけばいいのかな」
 ぶつぶつ言うはるちゃんがおかしくて、私は笑いながら聞いた。
「なんの話?」
「千波さんの代わりに、こいつを抱きしめて寝たら……駄目だ、千波さんの匂いがするから余計に眠れなさそう」
「貸してもいいけど?」
「いやいい。悶々としそうだから」
「悶々って」
「するよ」
 はるちゃんが抱き枕を横に置いて、私を抱き寄せる。
「あー千波さんだ……」
 次の瞬間には、熱いキスが降ってきた。
「ごめん、我慢できない」
 あっという間に服を脱がされて、ベッドに押し付けられる。
 はるちゃんが眼鏡を外した。自分の服も脱いで、私を抱きしめる。身動きできない。
 かろうじて片手を動かして、枕元のリモコンで電気を消した。
「千波さんが見えないよ」
「だって恥ずかしい」
「まあいいことにしてあげる」
 頭をなでて、耳元に口を寄せる。
「その代わり、声聞かせて」
 このささやかれる声に私が弱いことを知っているに違いない。
 体の力が抜けてしまうのだ。
「はるちゃん……」
 力無く呼ぶと、はるちゃんはクスッと笑った。
「千波さん、可愛い」
 頭をなでて、キスをしながら、その手が段々降りていって。
 はるちゃんは、優しく熱く、私を愛してくれる。
 私もそれに応えて、久しぶりの夜は更けていった。



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