ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 土日は、2人でゆっくり過ごした。
 ご飯を作って、食べて、片付けて。
 朝昼晩、2人で。
 買い物に行って、帰ってきて、テレビを見て。
 日常を過ごして、2人でいることに喜びと安心を感じた。
 ふとそのことを話したら、はるちゃんも同じことを感じていたそうで、嬉しくて、2人で笑い合った。



 日曜日の午後、録画していた映画を見ていて、私はまたうとうとしてしまって。
 はるちゃんに寄りかかって眠ってしまった。
 この時、ちょうどエアコンの風がかかるところにいたのが良くなかったに違いない。

 夜中、喉に違和感を感じて目が覚めた。
 やばいかも。この感じは。
 とりあえず起きて、うがいをする。
 ベッドに戻ると、はるちゃんが目を覚ましていた。
「……千波さん、いないからびっくりした」
「ちょっとトイレ行ってた」
 声がもうかすれている。これは本格的にまずい。
「……ごめん、俺、また無理させた」
「え、なんで?」
「だって、声、かすれてるし」
 あっ、そういう意味か。
 さっきまで愛し合っていたことを思い出して、恥ずかしくなる。
「違うの、それじゃなくて……風邪ひいたかも」
「えっ」
 そのまま横になろうとしたら、止められた。
「パジャマ着た方がいいよ。エアコンは止められないから、ちゃんと着て」
 今夜は熱帯夜。エアコンはつけっぱなしだった。でも止めたら暑くて眠れない。
 私はキャミソールとショーツだけを着ていたから、パジャマを着て、ベッドに戻った。はるちゃんがしっかりと抱きしめてくれる。
「はるちゃん、あったかい」
「暑くない?」
 頷いて、私も抱きついた。
 はるちゃんは、私が眠れる何かを発している。
 なんだろなこれ、と思っているうちに、眠ってしまった。



 起きたら、喉が痛かった。
 多分、喉だけがやられた状態。でも、遠からず熱は出てくるはずだ。鼻の奥が熱い。
「……千波さん、起きたの?体大丈夫?」
 はるちゃんが目を覚ます。
 私は頷いた。とりあえず、喉以外はまだ大丈夫だ。
 うがいをしに洗面所へ行く。
 顔色は……まだ大丈夫。
 おとなしくしてれば、熱は出さなくて済むかな。
 鏡を見ながら考えていたら、はるちゃんが来た。
「ほんとに大丈夫?」
 振り返って頷く。
「返事、してみて」
 うつむく。でも、このまましゃべらないでいられるはずがない。
「……大丈夫」
 駄目だ。声がガラガラだ。
「全然駄目じゃん。熱は?とにかく寝てないと」
 はるちゃんにベッドに連れて行かれて、寝かされる。
「体温計どこ?」
 手を伸ばして、ベッドのすぐ横の棚から体温計を出して見せた。
「測って」
 体温計を脇の下に入れて、待つこと30秒。
 ピピピ、と鳴ったので出す。
「36度8分」
 私が言うと、はるちゃんはほっと息をついた。
「良かった。熱はないんだね」
 頷くと、頭をなでられる。
「会社、行かないと」
 そう言うと、はるちゃんが眉根を寄せた。
「なに言ってんの。行かせられないよ、そんな声で」
「でも、熱がある訳じゃないし、休めないよ」
「この後熱は出るんでしょ?休んでた方がいいよ」
「でも」
「だめだよ」
 はるちゃんがガバッと私に覆いかぶさる。
 突然のことに驚いている私を見て、はるちゃんはニッと笑った。
「言うこと聞かないと襲うよ?」
 顔を寄せてくる。
 私は慌てて、手で口を押さえた。
 はるちゃんが目を点にする。
「……キスは駄目。うつるから……」
 口を押さえたままもごもご言うと、はるちゃんはフッと笑う。
「じゃあこっちで我慢しとく」
 そう言って、おでこにキスして、私を抱き寄せる。
「病院行くんだよ」
「うん……」
 はるちゃんの腕の中はあったかくて気持ちいい。
「付いてこうかな」
「え?」
「病院。ちゃんと行くかどうか心配だし」
 はるちゃんの顔は真剣だ。
「駄目だよ、今日夏休み明けでしょ。ちゃんと行かないと。子どもじゃないんだから大丈夫だよ」
 時計を見ると、もう用意を始める時間だ。
「ちゃんと病院行くって約束する?」
 はるちゃんは、私を抱きしめたまま動かない。
 仕方なく頷く。そうしないと、はるちゃんが会社に行かない。
「じゃあ一緒に出よう。とりあえず朝ご飯作るよ」
 はるちゃんがてきぱきと朝ご飯を用意して、私はその間に小田島さんにメッセージを送る。
 小田島さんからは「了解」とだけ返事がきた。

 はるちゃんは、結局病院の前まで送ってくれて、会社に行った。
 診察が終わったら、必ずメッセージを送る約束をして。

 朝ご飯を食べた後から、なんとなく熱が上がってきている気がする。
 病院で待っている間に、頭がぼーっとしてきた。
 診察の直前に熱を測ったら37度3分だった。
「ああ、上がってきた?じゃあおとなしくしてて。わかってると思うけど、これからだからね」
 医者は淡々とこう言った。
 この病院は、就職して引っ越してきてからずっとかかっているところなので、話は早い。
 すぐにいつもの薬を出してもらった。

 薬局で待っている間に、はるちゃんにメッセージを送ると、凄い勢いで返事が返ってきた。
 ちゃんと仕事してるのかと疑いたくなる。

 ーーー大丈夫だから、心配しないで仕事して。

 私、そんなに頼りなく見えるのかな。
 なんだか凄く心配されてる。
 でも、前に『チカンに注意!』の看板が出た時も、同じように心配された気がする。
 心配し過ぎじゃない?と思ったけど、あの時ははるちゃんが側にいてくれて心強かったし、安心もできた。
 されないよりはされた方がいいんだけど……なんか、子ども扱いされてるみたい。
 はるちゃんが心配症なのか、私が頼りないのか……。

 熱で頭が働かないので、考えるのはやめた。
 はるちゃんが、私を心配してくれているのには変わりない。
 そして、それは嬉しいことだから。

 買い物をして、家に帰って。
 買ってきたヨーグルトを食べて、薬を飲んだ。

 ベッドに入ると、かすかにはるちゃんの匂いがして、安心して眠った。



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