ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
「はー……なるほど、久保田はそのタイプだったか」
小田島さんが感心したように言う。
「あんまりさわやか好青年だからウラがあるとは思ってたけど。自覚してんだな」
「そうですね。自覚はしてます」
「なるほど、中村が嫌う訳だ」
「たまに中村さんみたいに嫌われる人もいますけど、本田さんは違うんですよね。だから気になっちゃうんですよ」
「本田さんは、人見知りなだけだよ」
思わず口に出た。お前が特別って訳じゃない、というつもりで。
黙ってたから、声はかすれ気味だった。
久保田君の目が点になる。
「人見知り?あれが?」
俺がうまく言葉を出せないでいると、小田島さんが助けてくれる。
「本田は新人が来るといつもあんな感じだから。手負いの野良猫相手にしてると思って」
野良猫って。千波さんが猫だったら可愛いじゃないか。すぐ家に連れて帰るぞ。
「もう1ヶ月以上経ちますけど、まだ人見知りなんですか?」
「かかる時は半年かかるんだ。須藤にはしなかったけどな」
「え?」
「なんでだか、須藤にだけは最初っから普通にしてたんだよ。周りもびっくりだった」
久保田君が俺を見る。
どんな反応をしたらいいかわからなくて、素知らぬ顔で味噌汁をすすった。
「中村は女だったし、本田と合うタイプだったから大丈夫だったみたいだけど。西谷の時はちょっとかかったかな。まあ気長にしてやって。あ、餌付けは有効だぞ」
「何が好きなんですか?」
「本田はチョコレートだな」
「じゃあ早速」
「……駄目」
弱々しく止める。
「……チョコレートは、駄目」
小田島さんが笑いをこらえているのが目の端に見える。
「餌付けとか、駄目だから」
からかわれてるのはわかってるけど、これは止めなければ、と思った。
言っていて、顔が熱くなる。
久保田君が、ニカッと笑った。
「須藤さん、僕にちゃんと駄目って言えるんなら、本田さんにも言えるんじゃないですか?」
「え……」
「おせっかいですけど、早く言った方がいいと思いますよ」
久保田君はそう言って、定食の残りを食べ始める。
「こんなに周りの人みんなが見守ってる人達って初めて見ました。大抵誰かがやっかんだりちょっかい出したりするのに」
「そうか?ウチの会社は見守り型だぞ。社風かな」
「優しい人が多いとは思います」
「ま、本田の人徳はあるかな」
「どういうことですか?」
「本田は人見知りだけど、コミュニケーションはちゃんと取る。自分の仕事もきちんとするし、他の人のフォローも欠かさない。人の悪口言わないし表裏がないから、みんなに好かれる。やっかむんじゃなくて応援しようっていう気にさせるんだよ」
小田島さんが苦笑した。
「時々、毒吐くけど」
確かに。ふわっとした口調で強烈な毒を吐く時があって、『優しいだけの人じゃない』ことを周囲の人に印象付けている。
「須藤も無口で無表情だけど、仕事はちゃんとする。周りの評価もいい。須藤が本田のことを好きなのはバレバレだけど、だからって仕事がおろそかになることはない。そんな2人がくっつきそうになってたら、余程のひねくれ者じゃなきゃちょっかいなんて出さないだろ」
思いがけなく自分も褒められて、恥ずかしい。
小田島さんは、そんな俺を見て、ニヤッと笑った。
「俺はもう、どうなってもおもしろそうだからなんでもいいけど」
「両思いだってわかってるんだから、もう言えばいいじゃないですか」
「両思い……?」
俺が訝しげにそう言うと、久保田君があきれた声を出す。
「だから、さっき言ったじゃないですか。お互いに大好きオーラ丸出しだって」
「え……」
自分がだだ漏れなのは知ってるけど、お互いに、ってことは千波さんも?
「それ最近なんだよ。3月くらいまでは、本田は全然気付いてなかったんだぞ」
「えっそうなんですか?ああ、だから須藤さんはそんなに自信ないんだ」
「自分がだだ漏れし過ぎて、本田のには気付かないんだろ」
「じゃあもう決まりですね、今日言いましょう」
久保田君が手を合わせてごちそうさまをしている。
「善は急げって言いますよね?」
俺を見て、さわやかな笑顔をよこす。
もうさわやかだけには見えない。中村さんは正しかった。こいつ、腹黒だ。
「今日言わないと、僕、本田さんの餌付けを開始しますよ」
「は⁈」
なんだそれ。
「今日何かがあれば、多分明日の朝すぐにわかると思うんで、何もなかったら、僕明日から本田さんにチョコあげますから」
「久保田……お前、なんでシステム課に来たんだ?営業だろ、その手腕を生かせるのは」
「営業の前にシステム課を経験した方がいいって勧められました。営業の筒井課長の通った道だって」
「ああ、そういえばあいつそうだったな。そうか、じゃあ出世コースまっしぐらだな」
なんだか2人で話しているけど、俺はついていけない。
千波さんに告白?今日?やらないと明日から久保田君が千波さんを餌付け?
情報量が多くて、頭は既にフリーズしている。
いや違う。
課題が大きくて、尻込みしているんだ。
いつ伝えようかとは思ってたけど、まさか今日⁈
頭の中が真っ白になる。
午後の仕事は身が入らず。
様子を見た小田島さんが苦笑しながら、時間を合わせるために千波さんに仕事を回した。
久保田君は、帰る時に俺の顔を覗き込んで「お先に失礼します」と、腹黒笑顔で帰って行った。
結局、俺と千波さん、2人で残業することになった。