転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
人を媒介扱いするとは失礼甚だしい話だが、生き延びるためなので仕方ない。それに落とすと言ってもリリザのように惚れさせようというわけではないのだ。単に味方になってもらうだけでよい。ゲームのように誰からも嫌われて助けてもらえないなんてまっぴらなのだから。
「執事の報告が大げさだったんですよ、きっと。だってサマラ様はこんなに礼儀正しくて愛らしいじゃないですか」
ディーの呟きを聞き取ったカレオが、突然サマラを抱き上げた。そして「ほら、久しぶりの親子のご対面なんだからハグしないと」と、目を丸くしているサマラをディーに向かって差し出す。
ディーはあからさまにためらう様子を見せたが、サマラが緑色の目でキョトンと見つめてるのを見ると、おずおずと手を伸ばした。そしてぎこちない手つきで小さな娘を抱き、「……ただいま」と、消えりそうな声で言った。
サマラの胸がキュッと切なく疼く。これは、サマラの抱えていた寂しさだ。
前世の記憶が戻りメタ的な視点を持っていたとしても、サマラがサマラであることに変わりはない。
父と母に見捨てられ孤独で寂しくて、けれど幼なすぎてその気持ちを説明することも理解することも出来なくて。わがままで発散するしかなかった氷の棘のように冷たくて痛かった感情が、胸の奥で溶けていく。
「おかえりなさい、おとーさま。……会いたかったよ」
ゲームではきっと一度も得られなかった父親のぬくもりを知って、サマラの目尻が勝手に濡れた。小さな腕で必死にディーの首筋に縋りついて、肩口に顔を擦りつける。
そんなサマラをカレオは温かな笑顔で見つめ、ディーは拙い手つきながらも小さな背中をポンポンと優しく叩いてくれた。