転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
あのときも何やら不穏な雰囲気を醸し出していたが、今もそれは変わりないようだ。ディーは彼が訪ねてくるたび酷く不機嫌になり、サマラを隠すように席を外させる。もちろん彼が何者かは、教えてくれない。

「レヴも研究所で見たことない? なんかちょっと怖い顔した背の低いお爺さん」

尋ねたサマラに、レヴは考えるそぶりも見せず「知らね」と答えた。

「そっか。……魔法使いっぽいけど、お父様と仲悪い人なのかなあ? とにかく、その人が訪ねてくるせいでお父様の機嫌が悪くなってこっちは困ってるのよね。ますます厳しくなっちゃってさ、今朝も『あの見習いの男と近づくんじゃないぞ』なんて言われちゃった。これってとばっちりよね」

不満そうにサマラは唇を尖らせて言うが、レヴはなんとなくぼんやりしていて同調してくれない。話を振ってきたのはレヴの方なのにと、サマラはますます憤って頬を膨らませる。

「私だってもうすぐ十七歳なんだし、男友達のひとりやふたりいたっておかしくないと思うの。だって貴族の中には十六歳でお嫁に行く子もいるのよ。それにお父様だって、十七歳のときにお母様とおつきあいしてたのに」

ブツブツと文句を言いながら、サマラはバスケットのサンドイッチを全部平らげた。
相変わらずレヴはぼんやりして相槌も打ってくれない。なんだか独り言を言ってひとりで怒ってるみたいで馬鹿らしいとサマラがため息をついたとき、レヴがやっと口を開いた。

「……どっか遠くに行きたいな」

「え?」

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