転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
レヴの瞳は隣にいるサマラではなく、前に広がる湖を映している。けれどその表情はどこか虚ろで、眼差しはもっと彼方遠くに向けられている気がした。

「何よ、いきなり。遠くってどこのこと?」

「どこでもいい。雲まで届く山でも、果てしない海でも、人が行ったことのない孤島でも。どこか、ここじゃない遠くに……お前と行きたいな」

レヴの言ったことがすぐには理解できなくて、サマラは目をしばたたかせた後、「……え? ……は!?」と顔をいきなり真っ赤にした。

(な、なにそれ!? 私と一緒に逃避行したいってこと? いやいや待って、いくらディーが反対してるからって十六歳の男の子がそんな破滅的なこと考える? ってかそもそも私たちってただの友達でしょ。そりゃ仲はいいし付き合いも長いけど、別に恋人ってわけじゃないし……だから愛の逃避行ってわけじゃなく……)

あれこれ考えてサマラはあたふたする。いつもならサマラがそんな姿を見せればレヴはすかさずからかってくるのだが、今日の彼はなんだか様子が違うみたいだ。

「……風の精はいいよな。自由の象徴みたいだ、どこにだって飛んでいける。俺も次に生まれてくるときは風の精になりたいな」

「……レヴ?」

湖の揺れる水面を見つめながら言うレヴの顔は、今までに見たことがない感情の色を湛えていた。羨望のようで嘲笑のようで、渇望のようで何かに抗うようで。

「どうしたの? 今日のレヴ、変だよ。お父様が言ったこと気にしてるの?」

なんだか気持ちがソワソワして、サマラはたまらなくなってレヴに手を伸ばした。風に揺れる黒髪が、ふわりとサマラの手をくすぐる。

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