転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

五歳の女の子が一人で使うにはあまりに広すぎる部屋。野バラ柄を織り込んだ絨毯に空色の壁紙。精緻な模様が彫られたオークでできた勉強机と椅子。花台に置かれた大きな磁器の花瓶には屋敷の庭園で育てられた季節の花が色とりどりに飾られ、ふたつの本棚には革表紙の立派な図鑑がずらりと並んでいる。

「サマラって超お嬢様よねぇ……」

しみじみと嘆息しながらサマラは言った。驚くことにこの広い部屋は彼女の有する部屋のひとつ、勉強部屋に過ぎないのだ。他にもこの屋敷にはサマラの寝室とドレッシングルームと居間がある。

スイカズラ模様に縁どりされた姿見に自分を映せば、リボンをたっぷり使った愛らしいドレスに身を包んだ人参色の髪の女の子がそこにいた。
ドレスにはところどころに宝石が縫い込まれ、これがガラス玉でないのなら相当な値段になることはたやすく察しがついた。もちろんこのドレスだけではない、ドレッシングルームにあるどのドレスもダイヤや真珠やルビーがキラキラと縫い込まれている。

今までなんの疑問も抱かずにそれらを着ていたけれど、佐藤由香の記憶を取り戻したサマラは思わず苦笑してしまう。
前世では宝石などひとつも持っていなかった。あまり興味がなかったのもあるけれど、佐藤由香の平凡なお仕事では独り暮らしして乙女ゲーム関係にお金を使うだけで精いっぱいで、アクセサリーにまでまわすお金がなかったのだ。もちろん恋人に宝石をもらう経験など皆無である。そもそも恋人がいたことがない。

「五歳の女の子に宝石ねぇ……」

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