転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
アリセルト家は魔公爵という特別な爵位を持っており、ディーが魔法使いとして国に貢献した報酬もあって、資産はバリアロス王国の国庫にも匹敵すると言われている。この屋敷のある領地アリアン以外にも、ディーはふたつほど領地を有しているのだ。
そう考えるとサマラの部屋も服もそれなりのものになるのも頷けるのだけれど、なんだか苦笑いしてしまうのは前世の金銭感覚を思い出したせいか、贅沢な服と中身の伴っていない自分を自覚したせいか。
鏡に自分の姿をクルクルと映して眺めていたサマラは、再びメイドが「お嬢様、晩餐の準備が――」と呼びに来たのを聞いて我に返り、「今行く!」と扉に向かって駆け出したのだった。
この世界のテーブルマナーが日本で学んだものと同じでよかったと、サマラはディーとカレオと囲んだ食卓で、こっそり安堵の笑みを浮かべた。
なにせサマラときたら勉強嫌いでまったくテーブルマナーを覚えようとしなかったのだから。今朝までは魚用のフォークでサラダを食べていた有様だ。
そんなサマラが今夜は完璧なマナーで淑女のように食事を進める姿を、給仕係が目を疑うように見つめている。
「おとーさま、おいしいですね。私、シチューが大好きなんです。おとーさまは何がお好きなの?」
サマラが愛らしく向かいの席のディーに話しかければ、ディーは少し戸惑うように口を噤んだけれど、少し考えてから「……好き嫌いなどない」と答えた。
(子供相手になんて愛想のない返事! ……サマラの性格が悪くなったのって、やっぱディーの責任がだいぶあるよね……)