転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

ディーの低く澄んだ声が水の音に共鳴すると、川の底から地鳴りのような音が響いてきた。気がつくと船の周囲は水の精でいっぱいになり、川に波が立ったと思ったら、漕いでもいないのに船が動き出した。
船はどんどん加速し、辺りの景色を目で追えないほどの速さとなった。

「わ、すごい！　すごい！」

窓から外を見ていたサマラは、大興奮だ。
やがて船を運んでいる川全体が巨大な水龍になっていくのを見て、サマラはますます鼻息を荒くした。水の龍の背に載った船は、留まることを知らないスピードで進んでいく。

「サマラ！　ぼくも！　ぼくも行く！」

「わっびっくりした！」

呼んでもいないのに、胸のペンダントからいきなりマリンが飛び出してきた。マリンは下半身を魚に変え、ウキウキと尾っぽを振っている。

「行かせてやれ。眷属が集まっていて興奮しているんだ」

ディーが飛沫で濡れた髪をかき上げながら船室に入ってきた。水も滴るいい男だな、と感心しながらサマラは「そうなんですね」と平静を装った。

船室の扉を開けてあげると、マリンは大喜びで川へ飛び込んでいった。激しい飛沫で姿は見えないが、「ちゃんと帰ってくるのよー！」とサマラが叫ぶと、どこからか「はーい！」と返事が返ってきた。

「大丈夫だ、使い魔は主人の許可なく遠くへは行けない」

それを聞いてサマラは安心して扉を閉めると、船室をあちこち見て回った。
小さい船だと思ったが、中は存外広いようだ。外が見える窓とソファーとテーブルがある前室、奥は小さなキッチンになっている。階段を降りると小ぢんまりとした寝室と、倉庫があった。