転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

サマラは頭をフル回転させた。そして0,5秒の熟考の末、しかめっ面をしているディーに向かってとびっきりの笑顔を浮かべ、スカートの裾を持って礼儀正しく頭を下げた。

「おかえりなさいませ、おとーさま。お仕事、おつかれさまでした」

貴族の幼子らしいその品行方正な態度に、ディーの顔が一瞬キョトンとする。周囲にいた筆頭執事やメイドも、ギョッと目を剥いたあと瞬きを繰り返していた。

それもそうだろう。勉強が大嫌いなサマラは礼儀作法の授業でさえサボってばかりいたのだから。しかも自分のことばかり考えていた彼女は記憶が戻る前までは、ディーを労う言葉などこれっぽっちも思いつかず、おねだりの言葉しか考えていなかったくらいだ。執事たちが驚くのも当然の反応だ。

すると。

「さすが、アリセルト家のご令嬢ですね。閣下ったら『うちの娘は挨拶も出来ないらしい』なんて謙遜しちゃって。五歳でこれだけの挨拶ができるなんて素晴らしいですよ。ね、サマラ様」

ディーの斜め後ろに立っていた男が、ヒョイと顔を覗かせてそうサマラに声をかけてきた。
褐色の肌に銀色の髪と灰色の瞳を持ち、温和そうに見える顔つきとは裏腹に、全身に立派な筋肉を纏っているのが王国の隊服の上からでも窺える。
剣帯に差した独特の形をした剣、そして胸に飾られた鷲と剣の家紋を見てサマラは確信する。

(カレオだ! カレオ・シァ・ユーゼブラだ!)

彼も『魔法の国の恋人』の攻略対象のひとり、剣士のカレオだ。
東国の血を引いている彼は、温和で人懐っこい性格ながら剣の腕はバリアロス王国一と名高く、かつて世界の危機を救うためディーと共に旅をしたこともある。

< 8 / 200 >

この作品をシェア

pagetop