転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
――いったい何時間が経っただろうか。歩くのと休憩を繰り返して、もう随分時間が経った気がする。

「おかしい……」

使い魔のフクロウが報告に行っただろうからすぐにディーが来てくれるものだと思っていたが、一向に助けに来ない。

くたびれて樹の根もとに座り込んだサマラが空を見上げると、まったく陽が傾いていないことに気がついた。

「もしかして……時間経ってない?」とサマラが怪訝そうに呟くと、甘えて膝に乗ってきたマリンが「だってピクシーの魔法の中だもん」と無邪気に答えた。
どうやら時間経過の体感も狂っているみたいだ。こちらでの数時間が現実世界では数分も経っていないのだろう。これではディーがいつ助けに来てくれるかわからない。

「う~~、もうやだー! 疲れたー! お腹空いたー!」

腹立たしいのは、魔法の中にいる者はしっかり疲れるしお腹も空くということだ。心細さも限界に達し、サマラはその場に大の字に寝そべってジタバタと暴れる。
きっとピクシーが物陰でこの惨めなさまを見て笑っているのだと思うと、ますます腹が立って仕方なかった。

――そのとき。パァン!という風船が弾けるような音がして、サマラの周囲の景色が一変した。サラサラと砂のように景色が崩れていき、その後ろに別の景色が――見慣れた自然公園の景色が見える。

「えっ?」

驚いたサマラは体を勢いよく起こし、周囲を見渡した。知らない森の奥ではなく、魔法の練習をしていた元の場所に戻っている。どうやらピクシーの魔法が解けたようだ。

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