独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい

「どうしたの? 急に暗い顔して」

 心配そうに覗き込まれ、慌てて顔の前で両手を振る。

「いえ。ボーッとしてしまって。すみません」

「少し疲れたかな? ゆっくり過ごすのも旅行の醍醐味だから、今日はこの辺にしておいてもいいかもしれない」

 確かに気は張っているだろう。初めてのひとり旅。突然、憧れの染谷さんに会い気も動転した。

「お気遣いありがとうございます。元々1日目は川平湾に行ければ上出来と思っていたので、大満足です」

「そっか。それは良かった。賢明な判断だ。初めての石垣島旅行だし、初日に詰め込み過ぎない方がいい」

 どこまでも優しい海斗さんと一緒にいるのに、元婚約者の人を思い出すのは失礼だよね。それに考えるだけ不毛だ。

「なにからなにまで、本当にありがとうございました」

「いいから、甘えてよ。男は可愛い子に甘えられると、張り切る生き物だから」

 微笑んで言われ、こちらが照れてしまう。大人の男性も、というよりも海斗さんみたいな素敵な人も女性に『可愛い』と、事あるごとに言うのは意外で、お世辞とわかっていてもなんだかくすぐったい。
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