独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい

 海斗さんと知っていたのなら、連絡したかもしれない。ううん。会食自体を無くしてもらっただろう。

「どうして、海斗さんがここに」

「一夜だけじゃ済ませないって言ったよな?」

「それは……。そうだとしても……」

 宣言したから来た、という簡単な話では済まされない。

 都合のいい考え方をすれば、あの日のことが忘れられず、父に直談判してくれたとか? ううん。私が村岡物産の社長の娘とは知らないはず。

 違うのはわかっているのに、もしかしてとの思いが胸をドキドキさせる。

「どうして俺が、きみとのこの見合いを実現できたと思う?」

「それは……」

 先ほどの浮かれた考えは口にできず、黙り込む。

「食事を運んでもらい、食べながら話そうか」

 食欲をそそる料理が並べられていくが、今は喉を通りそうにない。仲居さんが出て行くと、話は再開された。

「『染谷ケミカルホールディングス』は知っている?」

「……はい」

 染谷ケミカルホールディングスは大きな持ち株会社で、さまざまな企業を傘下に入れている。化学メーカーの染谷ケミカルを筆頭に、製薬会社や材料メーカー、実にたくさんの企業が名を連ねている。

『染谷』の企業名を聞き、海斗さんの素性を導き出せて目を丸くする。この流れで同じ名字なのに、うちは違ってさ。という話にはならないだろう。
< 49 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop