独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
目が覚めると、海斗さんの姿は見当たらない。リビングに行くと置き手紙。昨日とは逆の立場になった。
ひと言だけ『悪い。仕事で先に出る』とのメモ書きを手にして、指でなぞる。
それから仕事の準備に取り掛かり、広過ぎるマンションを出た。
和菓子屋『川瀬』に着くと、今日は制服に着替え店頭でお客様への対応を学ぶ。
制服は着物を動きやすくした形の作務衣と呼ばれるものを身につける。落ち着いたベージュの作務衣に、紺色の腰でかけるタイプの前掛けエプロン。邪魔にならないように、髪はひとつに結ぶ。
ショーケースには目を引く彩り豊かな上生菓子、それから控えめな饅頭に、焼き菓子。干菓子は小さな箱の中に並べられ、まるで淡い色の宝石だ。
大好きな和菓子に囲まれ、頬が緩む。
来店する人たちも和菓子が好きな人が多く、自然と会話も弾む。
不意に、海斗さんとの昨晩の会話が蘇る。和菓子屋に勤めていると知った時に言われた『どうしてよりによって、そのような仕事を』という言葉が。
その言葉は心に影を落とし、彼の傍に居続けるとはどういう意味なのかという甘くない現実を突き付ける。