ねえ、私を見て
それから、日奈人君とどんな会話をしたのか、覚えていない。

何度も何度も、“子供を作ろう”と言ってくれた、あの優しい笑顔と、あの車に乗っていた女の子の笑顔が、繰り返される。

気づいたら、私は家のリビングに、一人で立っていた。

「あっ、帰って来てたんだ。」

どう帰って来たかも、分からない。

バッグ以外に何も持っていないとなると、夕食の買い出しも行っていないようだ。

「今日の夕食、何にしよう。」

もしかして、あの女の子と食べてくる?

そう思ったら、手が止まった。

そうだ。

夫が帰って来てから、決めよう。

いつもは、自分より早く帰って来ている夫が、今日は帰って来ていない。

それは、あの女の子と一緒にいるから。

そこには、惨めな私がいた。
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