政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

美代子の顔がうれしそうに綻ぶ。まるで自分のことのよう。
事実、理仁もここへ菜摘を案内したときに『菜摘さんの希望通りの家だよ』と言ってはいたが、それをそのまま鵜呑みにはできずにいた。というよりは、素直に信じるのが怖かったのかもしれない。

美代子が「早くお顔を見せてあげてくださいね」と菜摘の手を握ったとき、理仁がダイニングに現れる。ネクタイをまだ締めていないワイシャツ姿だ。手にしていたジャケットをダイニングチェアに掛ける。


「おはよう」
「理仁様、おはようございます」


美代子に続いて「おはようございます」と、立ち上がった菜摘も続いた。


「昨夜、バスルームで倒れたそうじゃないか。起きて大丈夫なのか?」


菜摘が横目でチラッと見たら、美代子が小さく頷く。〝心配いらない〟と言っているように見えた。


「はい、ご心配をおかけしてすみませんでした」


頭を下げて椅子に座りなおしているうちに美代子が紅茶を淹れて戻る。たちまち部屋は甘い香りが満ちた。
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