政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
嫌にもなっていない。むしろその逆だと正直に打ち明けようと思ったら、不意打ちで抱き寄せられて声が引っ込んだ。そうされるとは思わず、体が石のように硬くなる。彼の肩先で息をひそめて、ただ自分の鼓動の高鳴りを聞いていた。
「ま、逃げたとしても、どこまでも追いかけるけど」
クスッと鼻を鳴らした理仁は、菜摘を離す間際、耳もとに唇を寄せてチュッと音を立てた。
突然耳にキスをされ、無意識に息を止める。次はどこにされるのかドキドキしている自分に気づいて、咄嗟に彼の胸を押した。
それでも強引になにか仕掛けてくるかと予測したが、菜摘の完全な思い違いだった。理仁はすんなりと引き下がり、運転席に座りなおした。
ホッとしたようなガッカリしたような、複雑な心境だ。
エンジンがかけられ、車が静かに走りだす。
「しかしほんとによく似てるね」
理仁は左側のウインカーを点滅させ、ハンドルをゆっくりと左へ旋回させた。
「私がショートカットだったときは友達もよく間違えました」