政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
◇◇◇◇◇
その日、理仁を仕事に見送った後の菜摘は、リビングのテレビに釘付けになっていた。発達した台風がいよいよ九州に上陸し、そのまま本州を縦断するというのだ。
窓の外の様子はまだ普段と変わらないが、報道番組では「風が弱いうちにしっかりとした備えを」と盛んに繰り返していた。
「こんな早い時季から嫌ですねぇ」
いい香りがすると思ったら、美代子が紅茶を淹れてくれていた。ティーカップをテーブルに置き、テレビに目線を向ける。
「今年はほんとに早いですよね」
「菜摘様はご実家のこともございますし、それはもう心配でしょうね」
「そうなんです……」
対応策を打ったとはいえ万全だと自信はもてない。
ついさっきも心配した和夫が病院から電話をよこしてきた。あれはやったか、これはやったかと一つひとつ確認し合っていたところだ。
「ゆっくりするなんて気分ではないでしょうが、ひとまず紅茶を飲んで少しでもリラックスしてくださいね」
美代子はそう声を掛けてリビングを出ていった。
ソーサーごとカップを持ち、口をつける。ほんのりと甘い香りはひとときの癒しだった。