政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

◇◇◇◇◇

遠くの空が白みはじめ、ようやく静けさを取り戻した頃、菜摘は理仁に書き置きを残してひとり静かに家を出た。大人しく台風が過ぎ去るのを待っていたが、夜が完全に明けるまで待っていられない。結局一睡もできなかった。

嵐が去った街は静けさこそ取り戻しているが、街路樹は枝が折れて葉は散り、道路には飛んできたダストボックスや段ボールが散乱している。一見頑丈そうな看板が破壊されて転がっていた。怒涛の如く通り過ぎた台風の爪痕が生々しい。

猛スピードで流れる雲の隙間から薄いブルーの空が顔を覗かせはじめたが、その光景を目の当たりにした菜摘は小走りに駅へ急いだ。

この時間なら始発は出ているだろうと期待して駅へやって来たが、電光掲示板には運行調整中と流れていた。
バスの運行はもう少し先。タクシーはお金がかかるため避けたかったが、そうも言っていられない。菜摘と同じように足に困った人たちがタクシー乗り場に列を作っており、その最後尾に並んだ。
早く早くと気ばかり焦る。

(どうか、なにごともありませんように……)

はやる心をなんとか宥めすかせ、ひたすらタクシーを待つ。ようやく菜摘の順番になり、慌てて後部座席に乗り込んだ。
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