政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

大地の励ましがなかったら途方に暮れるばかりで埒が明かなかったに違いない。


「俺だって来年は社会人だぞ? 大人であたり前。それに……」
「それに?」


首を傾げ、言葉を止めた大地の方を見る。


「昔、ねえちゃんにしてもらったのと同じことをしただけだし」
「……え?」
「親がいっぺんに死んでさ、俺、毎日泣き通しだったじゃん」
「覚えてるんだ」


当時大地は八歳だったから、てっきり記憶に残っていないかと思っていたけれど。

目が覚めれば『お父さんとお母さんに会いたい』と泣きじゃくる大地の手を、菜摘は握りしめることしかできなかった。


「いろんな記憶は曖昧だけど、ねえちゃんがいつもそばにいてくれたのは結構鮮明にね」
「そっか」


思えば、大地と当時の話をするのははじめて。悲しい記憶だから、なんとなく避けてきた気がする。
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