政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
「菜摘さん、ですよね?」
「は、はい。先日はありがとうございました」
その言葉が正しいのかわからないが、ほかに見つからない。
「あのあの! もしかしてチーフパティシエの山崎エリカさんですか?」
目をぱちくりとさせてふたりを見比べていた郁子が、唐突に切りだす。
エリカは少し面食らったようで「え、ええ、そうです」と言葉を詰まらせて返した。
「やっぱり! 雑誌の掲載記事を何度か拝読させていただきました。私、じつはこういう者で……」
高いテンションでバッグからすかさず名刺を取り出し、エリカに差し出す。抜け目がまったくない。
「出版社の方でしたか」
受け取った名刺をさっと確認したエリカが軽く頷く。
「今度ぜひ私どものファッション誌でも、山崎さんがお作りになるケーキを掲載させてください」