政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

「ありがとうございます。ですが、そういったお話でしたら本社の方へ一度掛け合っていただけないでしょうか。私の一存では決めかねますので」


興奮する郁子とは対極にあるような冷静な受け答えだった。キリリとした表情も崩れない。
先日、理仁と話していたときの気さくな感じはなかった。とはいえ、相手が菜摘と郁子では一線を引くのは当然かもしれないけれど。


「では、そうさせていただきますので、その際にはどうぞよろしくお願いします」


郁子が怯みもせずにこやかに頭を下げると、エリカは「承知いたしました。では、どうぞごゆっくり」と一礼して厨房へ戻っていった。


「ちょっと菜摘、山崎エリカと顔見知りだったの?」


彼女の姿が見えなくなるや否や、郁子が肩も声もひそめて聞いてくる。


「この前、理仁さんと一緒にここへ来たときに紹介されてね」
「そうだったんだ。いやしかし実物も美人だねー」


しみじみ呟きながらムースをパクッとして続ける。
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