政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
理仁がイチゴ目当てだと、本当はどこかで知っていた。でも、好きになる気持ちを止められなくて、無意識にそのことは考えないできた。
そんな現実を彼女に突きつけられ、〝違います〟と胸を張って言えず、唇を噛みしめる。
「所詮、農家の娘でしょう?」
その言葉は侮蔑にまみれていた。
自分自身を悪く言われるのはまだ我慢できる。でも、イチゴ農園を蔑まれては黙っていられない。
「私は誇りをもってイチゴを作っています。いくら理仁さんの古くからのご友人でも、そんなふうに言われたくありません」
失礼を承知のうえできっぱりと言ったつもりだが、唇が震える。たぶんそれは、エリカに対する悔しさのせいだろう。
まさか言い返されるとは思わなかったのか、エリカは一瞬怯んだように見えた。
「……そう。それならそれでいいんじゃない? じゃ、私はこっちだから」
気づけば駅の改札を抜けていた。エリカは左側のホームへ続く階段へ、たしかに朗らかな空気を引き連れていく。
毅然と言い返したはずの菜摘だったが、心に黒い影が差す。右側の階段を重い足取りで上った。