政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
嫌味なほどに青い空と対照的に、親族たちのすすり泣く声が響く会場内。一番後ろの席で肩を震わせていた理仁にそっとハンカチを差し出した少女、それが菜摘だった。
彼女は泣きじゃくる幼い弟の手を握り、涙を懸命に堪えて唇を噛みしめていた。弟の手前、自分が泣くわけにはいかないと我慢していたのだろう。
自分よりもずっと年下であるはずの菜摘の力強い眼差しが、理仁の心を奮い立たせた。
そのときの菜摘の姿は理仁の脳裏に鮮烈に焼きつき、それからの理仁の支えのようなものでもあった。
恋とは違う、同志のようなものとでもいったらいいのか。どこで暮らしているのかはわからなかったが、彼女だって、きっとどこかでがんばっている。そう思えたからこそ、ここまでやってこられた。
亡くなった父親の兄夫婦に子どもがいなかったためミレーヌの跡継ぎとして引き取られ、そうして十数年が過ぎたあるとき――。
雑誌で見覚えのある眼差しを見つけた。間違えようもない。あのときの強く凛とした瞳のまま、美しい女性に成長した彼女がそこにいた。
それからの経緯は言うまでもなく、菜摘がイチゴ農園を営む祖父の元に身を寄せているのを知り接触を試みた。
十数年ぶりに会った彼女は当時の面影を残したまま、生き生きとして理仁の前に。
――手に入れたい。
瞬間、強くそう思った。