政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
自分とエリカとの間には、高校時代の先輩後輩という関係以上のものはなにもない。そのあたりは一線を引いてきたつもりだ。
「誰のためにパティシエになったと思ってるの?」
興奮しているのか鼻がピクリと動いた。
少なくとも彼女は自分自身のためではないと言いたいらしい。そしてそれは理仁のためだと言わんばかりだ。
「それを押しつけと呼ぶんじゃないか?」
自分でもひどい言い方だと思うが、菜摘を傷つけられた怒りの方が大きく、制御ができなかった。それでも堪えた方だ。
フランスでの修業から帰ってきた彼女が理仁の元を訪ねてきたのは一年ほど前。友人や知り合いの関係性を社内に持ち込みたくはなかったが、熱心な彼女に負けてパティシエとして迎えた。世間ではなぜか、ミレーヌの強い希望でフランスの名店から引き抜いたと噂になっていたが。
あちらで開催された大会でも入賞した経歴があり、その腕もたしかだったため、それに甘えた理仁自身も詰めが甘かったと言わざるを得ない。彼女から感じる好意を友人の延長線上だと見誤っていたのもある。