政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

◇◇◇◇◇

ビニールを張り変えたハウスで、菜摘は今年の冬に向けたイチゴの苗の定植をしていた。大地はアルバイトのため、ひとりで黙々と苗を植え変えていく。
なにも考えずにいられるのは、今の菜摘にとってありがたかった。動いていなければ余計なことばかりを考えてしまうから。


「菜摘さん? いますか?」


そんな声が聞こえてきたのは、そろそろ今日の作業を終わりにしようかという頃だった。
顔を上げてハウスの出入り口を見ると、JAの竹之内が顔を覗かせていた。


「竹之内さん、こんにちは」


グローブを外し、ワークエプロンのポケットに入れていたタオルで額の汗を拭いながら、彼の元へ向かう。


「お疲れさまです。定植ですか?」


菜摘を見てにこやかな顔で問いかける。


「そうなんです。今日はどうしたんですか?」
「先日の台風の被害状況を見て回っているんです。見たところ佐々良さんのところは被害が少ないようですけど」


竹之内は首をぐるっと回して辺りを見た。
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