カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


 先日結納を済ませ、結婚の自覚がじわじわと芽生えてきている。それは、希望や幸せという明るい感情ではなく、不安や重圧だ。

 結納から例の若旦那とは一度も会えずにいるのも、沈んだ気持ちになる原因のひとつかもしれない。


 そのとき、スマートフォンの着信音が鳴った。画面に表示されているのは“千里さん”の文字だ。ちょうど彼を考えていたこともあり、動揺する。

 電話がかかってくるなんて初めて。何の用件だろう。


「はい、もしもし」

『あ、桃ちゃん。今、時間は大丈夫?』

「平気です。ちょうどお昼休みなので」


 久しぶりに声を聞いて、緊張する。

 相変わらず口調は優しげだが、お見合い会場での一件が頭をよぎったため警戒は解かない。


『立て込んでいた仕事が落ち着いて、週末時間が作れたんだ。金曜日の夜は空いてる?』


 通話を繋いだまま、急いで手帳アプリを起動して確認した。予定は真っ白だ。

< 35 / 158 >

この作品をシェア

pagetop