カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


「はい、空いています」

『よかった。ゆっくり話す時間が取れてなかったから、ふたりで過ごしたくてさ』

「ふたりで?」

『はは。急に声が低くなった。親睦を深めるだけだよ。俺たちは夫婦になるんだからね。仕事が終わったら、美澄屋まで来れるかな』

「わかりました」

『ありがとう。楽しみにしてる。……あ、お腹を空かせておいで』


 優しく誘う口調に返事をすると、電話が終わった。まだ心臓がドキドキしている。

 これは、ご飯のお誘い?

 結納まで済ませているというのに、ふたりで会うのは初めてだ。

 バーで会った時は素性を知らないままだったし、お見合いも結納も緊張で会話を楽しむどころではなかった。

 もしかして、気遣ってくれたのかな。

 私は初っ端から『旦那を好きにはなれない』と伝えてしまったし、愛のない政略結婚なのだから、必要以上に距離を縮めないと思っていたのに。

 不思議と、予定が埋まった後の気分は晴れやかだ。さっきまであんなに暗い気持ちだったのに、なぜだろう。

 突然の彼からの誘いに、なんとなくそわそわしてしまうのだった。


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