カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
**


「ここで、合ってるよね」


 約束の日となり、定時で退勤した私はベリーヒルズビレッジのショッピングモールに来ていた。

 通勤の定期券区間内にあり、最寄り駅から徒歩五分という立地条件にあるため、たまに立ち寄っていたが、じっくりテナントで買い物をしたことはなかった。

 フロアの案内図を見ながら美澄屋を目指す。

 やがて、目的の店はすぐに気づいた。明るい照明に色とりどりの着物が照らされている。

 黒い衣桁(いこう)にかけられた優美な振袖が存在感を放ち、様々な高さの撞木(しゅもく)に並ぶ帯や反物が輝いていた。

 間仕切りには竹素材でできたのれんが使われており、空間そのものに和の雰囲気を感じる。

 すごい。ここだけ空気が違うみたい。ひとめで着物の美しさや風格が伝わってくる。

 どこを見ても高そうな品ばかりだ。色を見やすくするために豪華な布が段違いに重ねてあるが、うかつに触れられない。


「いらっしゃいませ」

< 37 / 158 >

この作品をシェア

pagetop