冷酷御曹司と仮初の花嫁
「陽菜ちゃん。大丈夫?」

「そんなわけないです。でも、麗奈さんに頼まれたし、千夜子さんがサブに付くってまで言われて断れなくて」

「え?千夜子ママがサブ??それは凄いね。控室でママが待っているから案内するよ」

 間島さんに案内されて、フロアを通らずに控室に行くと、間島さんに連れてこられた私を見ると、安心したように千夜子さんは微笑んだ。

「本当にありがとう。余りに急で申し訳ないわ。でも、陽菜ちゃんの素性が分からないように、化粧もするし、着物も用意したから」

「着物??そんなに本格的ですか?」

「ええ。本当に大事なお客様なの。だから、着物でお願い」

「でも、着物なんか着て汚したら……」

「私のだから汚しても大丈夫。古いものだし、柄も私にはもう若いから着れないの。さ、時間が無いから着替えましょ。化粧は少し変えるだけでいいし、髪はうーん。美容室に行く時間が無いから私が纏めるわ」

「そんな。でも……」

「本当に陽菜ちゃん。お願い」

 麗奈さんの友達だけあって、こういう時に目を潤ませるのは止めて欲しい。断れなくなり、私は小さく頷くしかなかった。

 頷いた私の服は千夜子さんに剥ぎ取られるように脱がされ、下着一枚にされたら、今度は一気に着付けをされる。髪を纏めて、化粧までものの20分で終わらせた。

「本当は化粧を先にしないといけないけど、時間がないから簡単にするわ」

 普段は使いそうもないくらいに艶やかなジェルを唇に乗せると、目尻にアイシャドウを乗せると、麗奈さんの店での化粧は自分で盛っているつもりだったけど、その道のプロに任せるとこんなに変わるのだと思った。

 着物を着て、千夜子さんに連れられて出てきた私を見た間島さんは……。少し驚いたように私の顔をマジマジと見つめた。
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