冷酷御曹司と仮初の花嫁
「女は化けるっていうけど、陽菜ちゃんの化け方は別人というか異次元だな。化粧映えするにしても変わり過ぎる。これはこれでアリだね。千夜子さんの店で働けば??それなりに売れる気がする」

 クラブで働くつもりもないし、それにしても異次元の化粧って……。確かに少し地味目の顔をしているけど、いつも綺麗なお姉さんに囲まれて働いている間島さんに言われたくない。

「間島くん。今から、『陽菜ちゃん』と呼ばないようにね。源氏名は何にしようかしら」

 そういって、千代子さんは私が着ている着物を見て、ニッコリと笑った。

「綺麗な蝶が図柄にあるから、『揚羽』はどう?華やかな感じでいいでしょ。うちの店には揚羽ちゃんは居ないし。素敵じゃない?」

「それって名前負けします。私ってそんなにあでやかではないし」

「そんなことないと思うけど。なら、どうしようかしら。胡蝶?紫?牡丹?蘭?……。あ、そうだ。静香は?」

 すごく普通の名前だと思った。でも、それなら名前負けしない気がした。少し私が反応したのが嬉しかったのか、千代子さんは綺麗な微笑みを浮かべた。

「ではそれで。でも、静香さんってだけ、普通の名前ですね。お知り合いにどなたかいるのですか?」

「ふふふ。麗奈の本名よ。娘のように可愛がっている陽菜ちゃんの源氏名になるのなら本望でしょ」

 麗奈さんの本名を源氏名にするなんて、本当に名前に負ける。クラブ時代の麗奈さんの写真を見た事あるけど、迫力たっぷりの名前の通りの麗しさだった。

「いえいえ。それでこそ名前負けします」

「じゃ、私の本名にする?龍子だけど」

「龍子??さん??」

「そう。お父さんが坂本龍馬のファンで、娘の私が龍子。おりょうって呼びたかったらしいけど…」 
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