冷酷御曹司と仮初の花嫁
「静香ちゃんはジュース??」

「ほとんどジュースですが、少しだけアルコールが入っています。緊張して慣れてないから、あまり強いお酒は身体によくないでしょう」

 そう答えたのは千夜子さんだった。お酒が飲めない設定のつもりだろう。でも、実は本当に私はそんなにいっぱいのお酒が飲めない。お酒を飲むくらいなら、キャベツの一個でも買いたいと思っていたので、お酒を飲むという習慣がなかった。

 会社でも飲めないと言っていたら、無理に進められることもなかったから、私はお酒を飲んだことが殆どなかった。ビールに口をつけて苦いと思ってから、一度も口にしていない。目の前にあるジュースらしきものの中にどのくらいのアルコールが入っているか分からない。

 でも、みんながグラスを持って、乾杯をしようとしているのに水を差すわけにもいかなかった。

「じゃ、佐久間商事と江藤株式会社の発展を祝して……」


 佐久間商事……。

 佐久間商事は私が大学の時に就職試験を受け、見事、お祈りメールを貰った華々しく散った会社だった。こんな場所で佐久間商事の名前を聞くことになるとは思わなかった。こんな場所で佐久間商事の社長に会うなんて思わなかった。出来れば、就職試験の時に会いたかった。

 千代子さんに説明され、私の隣に座っているのは佐久間商事の社長の佐久間匠(さくまたくみ)さんで、目の前にいるのが、江藤株式会社の営業本部長さん。

 今日の接待は佐久間商事と江藤株式会社の仮契約の商談の後に行われた接待だった。

< 21 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop