冷酷御曹司と仮初の花嫁
 横に座る佐久間さんは横に座る女の人には全く興味を示さない人で、千夜子さんと私が横にいても、目もくれず、真っすぐに江藤さんと話している。

 話の内容な守秘義務があるから、聞き流しなら、私は千夜子さんの真似をして、お酒は作れないから、おしぼりを変えたりして時間を過ごす。約束の二時間まであと少しというところまでやってきた。

 佐久間さんと江藤さんの話も順調に進んでいるのか、和やかな時間が過ぎている。江藤さんはどうしても、この佐久間さんと一緒に仕事をしたくてたまらないみたいというのは分かるけど、どうも佐久間さんの方は乗り気ではないようにも見える。

 商談を上手く行かせるために、高級クラブで名高い千夜子ママの店を選んだにも関わらず、香水のことをリサーチ不足というのはどうなのだろう。

 私の役目ももう終わり。これで五万は申し訳ないと思うけど、お金は必要だから、心の中で千夜子さんに手を合わせた。

 本当に座っているだけの仕事で申し訳ないと思うけど……。

「話し中、すみません。少しトイレに行ってきます。いやー。佐久間さんと話していると仕事が楽しくなるね。もう少し話に付き合ってもらいますよ」

 江藤さんがトイレに立たれて、千夜子さんが案内している間に佐久間さんはフッと息を吐き、初めて私を見つめた。そして、視線が緩やかに着物に注がれる気がした。

「着物似合うね。花柄の華やかさがとっても似合う。こういう店はドレスが多いけど、着物もいいな。可愛いよ」

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