ズルくてもいいから抱きしめて。
会場を一通り回り終えると、よく知る顔を見つけた。

「あっ、高木さん!」

私は、この個展のことを教えてくれた高木さんに声をかけた。

「やぁ、姫乃ちゃん!やっぱり来たんだね。そちらは、、、姫乃ちゃんの彼氏かな?」

「こちらは、上司の天城です。それからえっと、、、」

今日は仕事も兼ねて来ている。

どう答えて良いのか分からず、隣に立つ樹さんを見ると、樹さんは『うん』と黙って頷いた。

「えっと、、、上司でもあり恋人でもあります。」

「初めまして、天城です。今日の個展のことを教えて頂きありがとうございました。“shin”のことは情報が少ないので、とても助かりました。」

「どうも、高木です。こんなに素敵な恋人が居るなんて、、、姫乃ちゃん、良かったね!」

「はい!私には勿体無いぐらいの素敵な方です!」

「ハハッ!姫乃ちゃんが前に進んでるようで安心したよ。あとは、、、あいつだけだな。」

「えっ?、、、あいつ?」

高木さんが何か言うのを待っていたが、複雑そうな顔をするだけで言うつもりはないらしい。

あいつって誰のこと?

何の話だろう?

高木さんの含みのある言い方が気になったが、これ以上は聞かない方が良いような気がした。
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