ズルくてもいいから抱きしめて。
私たちが何も言えずに沈黙が続くと、先に沈黙を破ったのは高木さんだった。

「ごめん、慎二。俺が、姫乃ちゃんに今日の個展のこと教えた。」

「高木さん、何で!?何でそんな勝手なことしたんだよ!俺がどんな思いで、、、!!」

慎二が突然声を荒げ、高木さんに怒りをぶつけた。

「お前、このままで本当に良かったと思ってるのか!?お前が突然目の前から消えて、姫乃ちゃんがどんな思いで今日まで過ごして来たと思う!?そんなに会いたくないなら、何で写真続けてたんだよ!本当は姫乃ちゃんに気付いてもらいたかったんだろ!?もういい加減、前に進めよ!お前だって分かってるんだろ!?」

「俺だってわかってるよ!だからって、こんな、、、こんなことって、、、」

慎二と高木さんが目の前で言い争っているにも関わらず、私はどこか他人事のように思えた。

まだ何が起こっているのか分からない。

何も考えられない。

ただ、呆然とその光景を眺めていた。

そんな私に見兼ねたのか、樹さんがグッと私の腰を自分の方へ引き寄せた。

「あの!お取り込み中で申し訳ないのですが、お互い冷静に話せそうにないので、日を改めてお話ししませんか?今日のところは連れて帰らせてください。」

樹さんは、目の前で言い争っていた2人に淡々と告げた。

「そうですね、、、分かりました。」

慎二は、気まずそうに目を逸らしながら答えた。

「姫乃ちゃん、今日は驚かせて悪かったね。俺は慎二にも前を向いて欲しかったんだ。だから、姫乃ちゃんには申し訳ないけど、また改めて会ってやってほしい。」

「、、、分かりました。」

今の私には、そう返事をするだけで精一杯だった。
< 27 / 101 >

この作品をシェア

pagetop