ズルくてもいいから抱きしめて。
私は樹さんに連れられ、自宅まで帰って来ていた。

自分がどうやって帰って来たのかよく分からない。

「樹さん、、、ごめんなさい。こんなことになってしまって、、、」

私が個展なんて行かなければ、、、そもそも“shin”の写真集を企画しなければ、こんなことにはならなかった。

「まさか慎二が、あの“shin”だったなんて、、、」

もう二度と会うことはないと思っていた元彼にあんな形で再会し、それをそばで見ていた樹さんの気持ちを考えると申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「姫乃、今回のことはお前が悪いんじゃない。誰が悪いとかじゃない。遅かれ早かれ向き合わないといけないことだったんだよ。きっと、、、」

樹さんは、私の気持ちを宥めるように優しく抱きしめてくれた。

高木さんは、今更慎二と会って何を話せって言うの?

私の中ではもうとっくに終わったこと。

樹さんと出逢って、また恋をすることができて、樹さんと過ごす毎日がとても幸せだった。

だから、今更過去のドロドロした気持ちと向き合う気になれない。

でも、きっとこのままじゃダメなんだよね。

「ねぇ、樹さん。私、もう一度自分の過去の気持ちと向き合ってみる。そうしないと、本当の意味で前に進めないし、樹さんと幸せでいられないと思う。」

「うん。姫乃がそう決めたなら、俺はそばで見守るだけだよ。」

樹さんはそう答えると、先ほどよりも強く私を抱きしめた。

樹さん、嫌な思いをさせてごめんなさい、、、
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