ズルくてもいいから抱きしめて。
「えっ!?姫乃!?」

急に声が聞こえて目が覚めた。

「あれ?樹さん、おかえりなさい。待ってる間に寝ちゃってたみたい。アハハ、、、」

「こんな所で寝るなよ!風邪でも引いたらどうするんだよ。それに、お前は女なんだぞ!もっと気を付けろよ!」

樹さん、すごく怒ってる。

でも、どうしてだろう?

怒られているのに、心配してくれていることがとてもうれしい。

「ごめんね、、、」

私は、謝罪しながらも顔がニヤけてしまいそうだった。

「まったく、、、能天気なやつだなお前は、、、俺も悪かったよ。連絡さっき気付いた。とりあえず部屋の中で話そうか。」



部屋に入ると、樹さんは温かいココアを入れてくれた。

「はぁ〜温まる、、、あれ?樹さん、ココアなんて飲むの?」

「いや、俺は甘いのはちょっと、、、お前、冬になるといつも会社でココア飲んでるだろ?だから、いつ来ても大丈夫なように買っておいたんだよ。」

「キュン!、、、今すごく“キュン”とした!」

「お前、“キュン”とか言うなよ!」

樹さんは照れを誤魔化すように、『ゴホンッ』と咳払いをして話を逸らした。

「それで、部屋の前で待ってたってことは大事な話なんだろ?」

「うん。あのね、、、私、慎二ともう一度会って話をしてこようと思うの。」

「そっか、、、分かった。」

樹さんはそう返事をすると、それ以上は何も聞いてこなかった。

「今週の日曜日に会ってくるね。本当はすごく不安だし、すごく怖い。その日は、ここから行って、ここへ帰って来ても良い?」

「ダメなわけないだろ。むしろ俺はその方が安心だから、、、」

「うん、ありがとう。」

私たちはそれ以上は何も言わず、どちらとも無くキスをした。
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