ズルくてもいいから抱きしめて。
慎二との待ち合わせ場所である公園の入り口に着くと、車椅子に乗る男性の後ろ姿が見えた。

車椅子姿は見慣れていなかったけれど、その男性の後ろ姿には見覚えがあった。

癖のある柔らかい猫っ毛の頭、私はあの髪に触れるのが大好きだった。

彼が居なくなってから、街中で同じような髪型を見付けると心がざわついた。

いつからだろう、、、?

愛しいと思っていたあの髪が、思い出したくもない過去になってしまったのは、、、

私はざわつく気持ちを落ち着かせるため、樹さんから貰った合鍵をそっと握りしめて、深く深呼吸をした。

大丈夫。

もうあの頃の私とは違う。

私はそう自分に言い聞かせて、慎二の元に歩みを進めた。



「こんにちは、、、慎二。」

そばに行って私が声を掛けると、慎二はそっと視線を上げて複雑そうに笑った。

「こんにちは、、、えっと、、、とりあえず座って。」

慎二に促され、私はそばにあったベンチに腰掛けた。

よく2人で来ていた公園。

慎二はいつもここで写真を撮っていて、私はそんな彼の姿を見るのが大好きだった。

「この公園、懐かしいね。」

「うん、、、よく2人で来てたね。」

慎二もあの頃の思い出が蘇ったのだろう。

私たちは、この懐かしい公園の景色をただ眺めていた。
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