ズルくてもいいから抱きしめて。
俺は、姫乃の元彼である【笹山 慎二】さんと先日会って話をした時のことを思い出していた。

「先日は御挨拶も出来ずに申し訳ありませんでした。私、春風出版の天城です。突然個展会場に訪ねてすみませんでした。」

挨拶をして、俺は名刺を差し出した。

「こちらこそ、お見苦しい所を、、、。えっと、出版社の方だったんですね。」

「はい、神崎も同じ部署で働いております。」

「そっか、、、姫乃は出版社に就職したんですね。」

笹山さんは、どこか寂しそうに呟いた。

「あっ、、、すみません!少し昔のことを思い出してしまって、、、。それで、今日はどういった御用件で?仕事のことでしょうか?」

「もちろん“shin”さんにお仕事の話もしたいのですが、それはまた後日改めてお願いに上がります。今日は、神崎、、、姫乃のことで笹山さんとお話したかったんです。」

笹山さんは、俺が“姫乃”と呼んだことに対して少し驚いたようだった。

「なるほど、、、天城さんは上司であり“恋人”なんですね。“姫乃とはもう会うな”とか牽制ですか?」

「いえ、むしろその逆です。彼女と会って、6年前の真相をきちんと話してあげてもらいたいんです。どんな理由があったのか私には分かりません。ただ、彼女は今でもあなたの夢を見て泣いています。前に進むためにも、過去と向き合う必要があります。きっと、笹山さんにとっても必要なことではないですか?」

「それは、もちろん俺も頭では理解しています。ただ、、、」

笹山さんにもそうするしかない事情があったのだろう。

好きな女の目の前から消えるのは、相当な覚悟が必要だったと思う。

きっと、たくさん悩んで、たくさん辛い思いもしてきたはずだ。

「今の姫乃になら、受け止められるはずです!」

俺は自信を持って言える。

姫乃は泣き虫ではあるが、決して弱いわけではない。

芯のある強い女性だ。

6年前の姫乃のことを俺は知らない。

でも、先輩として上司として、そして恋人として、ずっと彼女のことを見守ってきた。

そんな俺だからこそ、分かることもある。

もし姫乃が、今回のことをきっかけに元彼への気持ちが再燃してしまっても、彼女を諦められるほど簡単な気持ちではない。

俺にできることは、彼女を信じて、ただ彼女を愛することだけだ。
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