ズルくてもいいから抱きしめて。
姫乃は必ずこの部屋に帰ってくる。

俺はそう確信していた。

笹山さんへの想いを、今も抱えているのは知っている。

それでも、俺たちなりに少しずつ愛を育んできた。

6年前、姫乃と笹山さんは確かに想い合っていた。

そのことに対して複雑な気持ちにはなるが、今の26歳の姫乃だからこそ好きになった。

過去も全部引っくるめて今の姫乃なんだ。

そして、そんな姫乃だからこそ、俺のことを好きになってくれた。

ーーガチャガチャーー

鍵を開ける音がして、俺は玄関に向かった。

色んな思いを抱えて帰ってくる姫乃を、早く抱きしめてやりたかった。

ガチャッと扉が開いて、姫乃の姿が見えた。

髪はボサボサ、額には汗が滲んで、目には涙をいっぱい溜めて、、、

『どれだけ急いで帰ってきたんだよ!』とツッコミを入れたくなるような姿だったが、『ただいま』と言った顔は憑き物が落ちたようなスッキリとした表情をしていた。

きっと俺のために走って帰ってきてくれたのだろう。

、、、愛おしい。

そう思ったと同時に自然と体が動いて、姫乃を強く抱きしめた。

「おかえり、、、」
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