夫婦未満ですが、子作りすることになりました

「……聞いたことがあります。神代家は優秀な遺伝子を欲していて、どんな有利な政略結婚よりも優先されるって。もしかして、そのような女性を見つけたんですか?」

……嘘でしょ?

「ああ、優秀な女性だ。彼女を手離す気はないから、申し訳ないがあきらめてもらいたい」

「……ひどい。ひどいです零士さん! 私だってずっと好きだったのに!」

立ち上がる音がしたかと思うと、チェーンのハンドバッグをブンブン振りながらエントランスへ駆けていく若葉さんが横切り、私は亀のように首をすぼめて隠れた。

彼女が見えなくなり、残された零士さんも大きなため息をついて立ち上がる。彼は私には気づかず、エントランスとは反対の住居スペースをカードキーで開け、奥へ去っていった。ロビーには私ひとりだけ。

「はは……すごいよ明日菜」

乾いた声でつぶやき、ソファに沈んだ。じわりと涙があふれくる。
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