紅一点
重力が影響しているのだろう。
超最低速でかろうじて浮遊する
球体から発光と共に、闇の中
咆哮のような狂気に満ちた
オンナの絶叫が響く。
『呪ってやるぅぅぅぅ!!
末代まで呪ってやるわぁあ!!』
井戸という場所の為、
音の反響が半端ない。
ナニ!?その絶叫っ!!
怖いぃいいいいい!!
『いっやぁあああ!!』
思わず被せるように
絶叫した私の声を抑える様、
弁護士が私の口元を掌で覆った。
井戸を覗き込んでいた
半グレ集団も、
このリアルな呪文には
度肝を抜かれたのだろう。
何か叫びながら、
走り去っていった。
『しかし、オマエにも
怖いものがあったとはな。
意外だ。』
弁護士が窒息しかけの
私を解放して言う。
…アレをコワイと思わない
その精神力の方が数倍怖い。
『雅也、今の
何だったんだよ?!』
ほら、ごらんよ。
リサイクル屋も狼狽えた声を
あげているではないか。
『ん?あれか?今日、
離婚協議の打ち合わせを
事務所でしていたら、
相手が乗り込んできてな。
協議相手である嫁だ。
後で文字に起こすため
録音してたから、
偶然録れたのだが。
…まぁ、使い道があって
何よりだった。』
等と、大した事では
ないように言う。
…こんな事が、
毎日起こる職業なの
だろうか…?
弁護士など、罪人の罪を
減免して報酬をもらうなんて
どんな仕事だよと斜に見ていたが、
こんな事も仕事に含むと知ると、
何だかちょっと…気の毒だ。