紅一点
…まぁ、私もなけなしの
私財は回収したい。
アイツ等が漁って無ければ、
まだ残っているだろう。
桶に繋がった劣化気味の
ロープをぐっと引っ張ってみる。
滑車に掛かったそれは、
ある程度の耐久性はある様だ。
それにこの井戸の直径は、
程よく狭く、この幅であれば
内壁をよじ登れるだろう。
工程を頭の中で組み立てて
私は手繰り寄せたロープを
登り始めた。
「狭かった…」
そして…嘘のように、
身体が重かった。
かつて味わった事がない
我が身の重さだ。
重力がこんなにキツイとは…
某少年漫画の登場人物が
重力と時間の部屋で修行をした
意味を、この身を通し理解した。
…彼は立派だった。尊敬する。
地面に辿りつき、芝生の上に
手足を伸ばして転がり、
井戸から聞こえる呻き声を
BGMに呼吸を整える。
「あ。リサイクル屋」
引き揚げるのを忘れていた。
気が進まないが、同行者の
回収をしようと思い立つ。
立ち上がり井戸に近づくと
調度、たどり着いたオトコが
呻き声と共に、その手で
井戸の縁をつかむのが見えた。
『…サダコ嬢…』
…そういえば、バイト友達から、
お嬢出演のホラー映画DVDを、
借りパクしたままだった。
彼にとって、この過重力は
初体験だろうに、なかなかやる。
これなら手伝いも要るまい。
『ちょっとは手伝え!』
ゼェゼェ言いながら
井戸から這って出るオトコを
眺めながら、そのタフさに
いかばかりか感心した。