紅一点
カランコロン…
ドアベルが鳴り、
無常に扉が閉まった。
目線のやり場に困って、
視線を彷徨わせる。
どうやら、ここは、
カフェ…らしい。
目の前の…
真紅な生地に
鮮やかなシャクナゲの花が舞う
花魁?の着物の様な
ゴージャスな着流しを
羽織った大男は、
右手で眉間を押さえ、
溜息をついている。
…そりゃ、まあ
そうだろう。
…私は、数時間前、まさしく
この階下のリサイクルショップで
致し方なくとはいえ窃盗を働き、
サクッとつかまり、極悪店主により
商品として売却され、
さっきのお姉さんの経営する
風俗店?に、買われたのだから。
…そして、モノの数分で
このオネエ様に譲渡され
今に至る。
「…アンタ…名前は…?
どこから来たの…?」
バリトンの美声が問いかける。
「三好晶良(みよし あきら)。」
名前を言えば、頬杖をつきながら
私の胸の谷間を右手で指差す。
…えーっと…
オトコかオンナか
わかんないのかしら?
確かにタッパはあるし
私の声は女としては
低いでしょうけど、
低すぎはしないでしょう?
目下、オネエは私を
絶賛鑑定中の様だ。
こっちの世界でも…
その類は、デリケートな
問題なんだろうか?
「…え…と。工事完了的な…?」
…選らんでその台詞?!
脳内でオネエの語彙力に、
全力でツッコミながら
首のフリで否定する。
お心遣いを頂いておきながら、
なんだが、これは天然の渓谷だ。
「まぁ、そこに座れば?
アンタ、いくつ?
どこから来たの?」
…また、この質問か…
「年は17歳。どこから…って
城跡の井戸の横穴を這って来た。」
年齢は、とにかくとして。
出身の都道府県を口にしても、
リサイクル屋のオッサンも
風俗店経営者も、不可解な目を
するだけだったのだ。
「城跡って何よ?」
そこで、私は理解したのだ。
…ここは…異世界であると…