紅一点
  

『ああ、それ、バイト用の服。
制服…みたいなものだし、
置いていくよ。』

貴重品をボディバックに
詰めながら応える。

『いや、持って行こう。
家具は諦めてくれ。

俺の勘が、
オマエの仕事着ってのは、
多分、池田屋が興味を示すと
訴えている。』

そういって、彼は、徐に
ドレスを自分の着物の袂に
入れ始めた。

…池田屋の姐さんは
一体、どう言うポジション
なんだろう? 

ものすごく一目置かれて
いるっぽい。

イヤ、今反応すべきは
そこじゃない。

『ねぇ、袂って…普通
着物一着だって
入らないよね!?
どうなってんの!?』

愕然として、オトコの手を
止めれば。
ヤツはニヤリと嗤う。

『まぁ見てな。
俺の着物の袂は、異次元に
繋がってるからな。
道具要らずだよ。

俺だけじゃなくて、
ムコウじゃあ、異次元に
繋がるアイテムがあってな。
大抵皆持ってるぜ。

雅也のブレザーの
ポケットもそうだし。
さっきの呪い球も
そこから出してた。』

…呪い球…って

リサイクル屋は、
衣装やらタブレット、
教科書、普段着から、
もはやゴミかと思う様な、
捨てそびれたファッション雑誌を
含む、ダンボール箱数個の
微々たる私財を次々袂へ入れていく。

布団を入れた時には
度肝を抜かれたが、
うかうかしている時間はない。

大家さん宛てに
メモ紙にお礼を記して、
鍵と共に郵便受けに放りこみ、
早々に部屋を飛び出した。


 
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