紅一点
2章 side 淳之介
  
「…遅い…」

時計の針は巳の刻を指す。

…そうはいっても
ハオ達が発った翌日だけど。

溜息をつきながら
店の入口の方視線を送る。

「こんにちは、淳之介。
随分、イライラしてるわね。」

ドアベルが音を立てて
池田屋が顔を覗かせた。

女郎屋の経営者と思えないほど
可憐で華やかだが
コイツは食わせ者だ。

俺や雅也、重蔵は、他所の
遊郭の女郎が産み捨てた赤子だ。
当時、年端のいかぬ幼児だった
池田屋が、引き取って育てる様、
家の者に指示したと聞く。

先見の明、天才経営者

言い様なんて、様々あるだろうが
兎に角、一介のガキが
己の気分次第で、同じ年頃の
ガキの人生を左右するなど
普通はありえない話だ。

しかも、俺の事例については、
このアマは保護した事すら忘れ、
遊女達に預けていた。

今からは、想像もつかない位
キュートだった容姿のせいで
遊女達から、相当可愛がられ、
完全に、喋り言葉に
難が現れちまった。

…まぁ、こんな色街だから
色んな趣味嗜好のヤツが通うもんで
特別、難色を示すやつは
いなかったが…。

強いて言えば、男色系を
毛嫌いしている奴が
やたら避けてくるか…

俺がそっち系だと
思い込んで寄って来る…的な、
俺にとっては
災難な出来事はあったが…

まぁ、ご理解頂き
今に至っている。


 
 
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