紅一点
“今まで逃げてこられたのは、
奇跡とか偶然とか、運がいいとか、
そんな紙一重の所業だよ。”
雅也は、そういう。
「…雅也?」
男女の喧嘩する声が
反響してウルサイ。
「ホント、アイツら仲悪りぃ。
…ちょっと待ってな。」
“うるせぇなぁ!
井戸ん中で大声だすな!”
受話器越しに
喧騒をまともにくらって
耳がキンキンする。
「あんたも、通信機で大声
出すんじゃないわよ!」
でも、…なにはともあれ。
「なんにしろ、無事に
帰ってらっしゃい。」
とりあえず、ハオを
連れて帰ってくるなら
それでよしとして
通信を終える。
「そうだ。」
ハオを住まわすなら
鍵を付け替えないと
いけない。
ウチは、不特定多数が
出入りするから。
「どうしたの?」
池田屋が不思議そうに
問いかけるので、雅也の
不法侵入について話せば
「…オンナの子を
踏み付けたのね…
…そう。
どこぞを、握りつぶして
再起不能にしてやろうかしら。」
おっとりした口調で
物騒なことを言う。
「まぁまぁ、あの子も
やられっぱなしじゃ
無かったんだから。
玄関の鍵もだけど…
ハオの部屋の扉も
襖じゃあいけないわね。」
急いで対処する事を
ピックアップすれば
「あらあら。それじゃあ
うちの営繕衆を
寄越してあげる。
戻る迄には、その問題は
片付くわ。それじゃあ
ご馳走様。」
池田屋は、飄々と修繕の
手配をして、甘味のお代を
卓上に置き、優雅な動きで、
出ていってしまった。