紅一点
「あの井戸の横穴と、
皆がもってる“異世界の入口”と、
インターネット…電子空間って、
別物だと思うんだけど。」
淳之介特製、弁護士用
特別メニューを
テーブルに置く。
“いつもの”なんて、
常連感満載でぬかして
いらっしゃいますが。
…定食っぽく装ってあるが、
内容ブツは、単なるオトナ版
お子様ランチである事は
今日のところは、
池田屋の姐さんには
黙っておいてやろう。
いずれ、ここぞという時に
暴露してやる。
そんな私の腹のうちなど
お構いなしに、弁護士も
タブレットを検索しながら
食事を始めた。
「俺も詳しい構造はわからないが、
案外、原理は一緒なのかも
しれない。でもまぁ、それは
この際どうでもいい。
犯罪に巻き込まれなきゃな。」
「まぁ、こわい。」
弁護士の持論に、そう
コメントした姐さんだが
到底、怖そうに見えない。
一瞬、視線を泳がせた
弁護士も、同じ言葉を
飲み込んだようだ。
「ねぇ、ハオ、あなた、
ウチで用心棒をしない?」
カウンターに両肘をつき
顔の前で指を組んで
姐さんが言った。
「別に、厄介ごとの仲裁を
しろってんじゃないわ。
ハオは、危機察知能力が
高いから、それを
活かしてくれたら…と、
思うのよ。」
そう彼女が続ければ。
「待て待て、池田屋。
そんな直感を持ってる奴は、
殺されそうにならねぇよ。」
呆れた表情で弁護士が言う。
「あの井戸だって。
ムコウの瓦版によれば
イタズラとされてるが…
もう証拠隠滅の為に
塞がれた決まってるぞ。」
私もそれは知っている。
あの横穴が閉じたことを
淳之介に話したところ、
翌日には雅也が
ネットニュースから
見つけてきた。
井戸の開口がセメントで
塞がれたらしい。
彼は、ハッとした表情から
苦々しいソレに変り黙る。
「雅也、あなたの考えそうな
事は、大体わかっているわ。
もし奴らが、ハオの死体回収を
試みたならば、偽装がバレたうえ、
あの横穴も見つかっている。
そうすれば…
もう既に、奴らはこの世界を
見つけているって事よね。」
アイツらだったら、
こっちでも悪さをしそうだ。
「願わくば、あの通路が
バレていない事だが…」
弁護士が溜息をついた。
ーー私のせいじゃなければ
いいのに。
私が、ココにきたせいじゃ
なければ…