紅一点
太夫の話は、何だか
とても胸に刺さった。
長い付き合いだけど、
ここへ来たきっかけを
聞いたのは初めてだった。
「旦那、起きて。
そろそろ仕込みの時間
なんでしょ?」
寝付きが悪かったせいか
目覚めが悪い。
「もうちょっと
寝かせて…」
呼びかけてくる声に
背を向ける様に
寝返りをうつ。
「ちょっと、マジで
もう起きてよ!!
私、早朝稽古なのよ!!」
…早朝稽古…?
遊郭で聞き慣れない
単語を耳にして
身体を起こせば
「ちょっと、アンタまで
ジャージなわけ?!」
…まぁ、桜色の比較的
オシャレなデザインでは
あるけど…
「遊郭でジャージ姿の
遊女に見送られるとは
思わなかった。」
「旦那、私の言った事
忘れないでね。」
格子戸の隙間から
手を振る太夫に一つ頷き、
同意の意思を示して、
家への道を歩き出した。